2025.02.20
PTA講演会講師によるコラム 「O君のこと」 R元年10月 試験官:井上ゆかり 涼しい日が続き、秋らしくなってきました ハイキングや山登りをするのによい季節になってきましたね 私は山登りというと、Oくんという学習障害の男の子のことを思い出します。 当時、私は東京で情緒障害学級という通級制の学級の担任をしていました。 (通級制:通常学級に籍を置いたまま、週に1~2回、その子の障害や発達に合わせた療育支援を行う学級) Oくんは児童相談所からの紹介で私たちの学級に通ってくるようになりました。 近所の中学生のお兄さんに誘われて、盗みの見張り役をしていました。 夜中のスーパーに忍び込んで、ゲームソフトを盗んでいた中学生たちと一緒に補導されて、児童相談所に通うようになりました。 児童相談所から私たちの学級を紹介されたのは、補導されたからではありません。相談員の方が、小学校4年になっているのに、ひらがなの読み書きができないOくんを見て、適切な支援が必要だと感じたからでした。 初めて会ったOくん、会話からは、それほどの遅れは感じませんでした。しかし、ひらがなは拾い読みもおぼつかない。運動能力に偏りがあり、手先も不器用でした。 今なら、普通学級の担任の先生でも「発達障害では・・・?」と気づいてもらえるような状態でした。でも、当時は「発達障害」ということばもなく、障害に気づかれないまま4年生になっていたのだと思います。 Oくん自身は、どこかで「他のお友だちのように字が覚えられない。図工などの作品が上手に作れない。」ことには気づいていたと思います。 だから、勉強に関しては「ばからしくて、やってらんねーよ」というスタンスで ごまかしてきたようでした 当初は、私たちの前でも「やってらんねーよ」とふてくされた態度をとっていました。興味の持てそうな課題を使い、Oくんの理解のスピードに合わせて学習を進めるうちに、「やれば、できる」という気持ちが出てきたようです。 遅れのある1年生の女の子に絵本の読み聞かせをするという課題にも取り組み、小さい子の面倒もよく見てくれるようになりました。 通い始めて半年、「このごろは素直になってきたなあ」と思っていたころだったのですが・・・。 秋の合宿で山登りに行った時のことです 「山登りは長袖、長ズボンを着ていきます」と言ったにもかかわらず 半ズボンで出てきたOくん。持ってきた荷物を見ると、おかあさんは長ズボンを入れてくれていました。出してみると、少し小さめ、色も赤。 もしかしたら、妹のものを間に合わせに入れたのかも・・・。 嫌がる気持ちもちょっとわかるけど・・・。 「なぜ、長ズボンが良いか?」という説明をして説得してみましたが、本人はどうしても半ズボンで行くと言い張りました。通い始めたころの意固地さが戻ってきたかの印象でした。 他の先生方とも相談して、そのまま半ズボンでハイキングに参加させることにしました。 幸い、秋になって雑草はほとんど枯れて、草で手足を切ることはありませんでした。しかし、岩場に差し掛かった時、Oくんは足を滑らせて、転び岩で足の腿を切りました。傷口を見ながら、Oくんがぽつりと「やっぱ、長ズボンでないとだめだなあ・・・」と独り言のように言いました。 まわりにいた先生たちは、顔を見合わせ、だまっていました。 「それみたことか!長ズボンをはいてこないから!」とあえて言わなかったのです。 保健の先生が、だまって消毒をして絆創膏を貼ってあげました。 翌日、Oくんは「少し小さいけど、これを履いていく」と言って、赤い長ズボンを履いて出てきました。 1年後、5年生の合宿では「お母さんに買ってもらった」と新しい長ズボンを持ってきました。Oくん自身が「山登りには絶対に長ズボンがいる!僕のズボンを買ってほしい」と言っていたそうです。 大人が誰一人、「それみたことか!」とOくんを責めることがなかったからこそ、Oくんが自分の体験(失敗)から学んだのではないか?…と思っています |
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